⊕施工の神様
個人差に振り回される、設備工事の騒音問題
人間の五感には個人差があります。
Aさんは全く気にならない程度でも、Bさんは夜も眠れないくらい嫌悪感を抱くケースがあります。
建築物の中でも特に「設備」の分野では、そのような五感に関する様々な問題が潜んでいます。
今回は「客観的な基準がないと泥沼にハマる」という事例を紹介します。
騒音規制法の適用外「生活音」の問題
何事も「数値」で測ることが出来れば、ハッキリ白黒つけることが容易です。
例えば、騒音問題では「騒音規制法」という法律によって、現場の境界地点で「85dB」を超えてはいけないと定められています。
そこで最近の建設現場では、仮囲いに「騒音計と振動計のリアルタイム」を表示しているケースも多く、誰の目にも「法律を遵守出来ているか?」が一目瞭然です。(当然ながら、法律違反も一目瞭然です。)
しかし、本当に厄介な問題に発展しがちなのは、もっともっと小さな「生活音」の問題です。
なぜなら、生活音は騒音規制法の適用範囲外かつ85dBよりもはるかに小さなレベルで発生し、何より「問題になる音量の境界線がない」ということが一番問題になるからです。
マンション排水管の騒音問題でクレーム
ある日、私が施工を担当したわけではないのですが、マンションの生活音について相談を受けました。
その内容は「排水管からの騒音が気になる」というものでした。
具体的には、夜の同じ時間帯に「水回りから排水管を伝って水の流れる音」が耐えられないほど気になる、という内容でした。
利害関係のない人が聞いても9割は「問題だ」と答えるレベルの音なのか、もしくは9割が「このくらいの音は許容範囲だよ」と答えるレベルなのか。
——実際にその排水管の音を私が聞いたとしても、相談者の感覚と私の感覚が同じである可能性はないので、非常に難しい問題だと感じました。
ちなみに、施工者の回答は当然ながら「許容範囲である」とのことでした。
そこで、私は本来どのような設計仕様なのか、そして施工を仕様通りに行っているのか、その証拠となる写真を提示してもらうようにアドバイスしました。
しかし結局、相談者の納得のいく資料は施工者から結局出てきませんでした。施工者の立場としては「感性の問題」として処理したかったようです。
最終的には、半年以上のやり取りの後に「相談者の泣き寝入り」のような状態で終わってしまいました。
本当に設計や施工上の問題があったかどうかは闇のままでした。
クレーム対処における設計図書と施工状況写真
では、施工者の立場として今回のような問題が起きたときに、どのように対応もしくは予防することが正解だったのでしょうか?
私が相談者とやり取りしていた時に強く感じたのは、相談者の不安と不満が大きく増大した理由は「客観的な証拠」がいつまでたっても示されない、ということでした。
例えば、早い段階で施工者が設計図書の該当ページとその部屋の施工状況写真を提出してくれていれば、その資料をもとに相談者の方にも説明ができたかも知れません。
少なくとも「設計仕様通りに施工されているので、それ以上求めるのは難しい」とは言えたでしょう。もしも、施工写真がなかったとしてもファイバースコープなどで現況を確認することもできたはずです。
最終的に、相談者の方にとっても施工者にとっても長期戦になってしまったのは、客観的な証拠で勝負せずに、終始感性の問題としてうやむやにしてきたからだったように感じます。
工事写真と客観的な基準の重要性
この相談を受けてから私自身も、自分の施工現場において「工事写真」の重要性を改めて認識させられました。
人間の五感に関するクレームに対応するためには「客観的な基準」を設けてから対応しないと泥沼にはまってしまうという教訓です。
マンションデベロッパーによっては、夜など静かな環境下で実際に排水を行い、立ち合い者の「聴覚」で問題の有無を確認する会社もあります。きっと、そのデベロッパーは過去に同様のクレームを受けたことがあるのでしょう。
マンションや戸建て住宅で本当に長期戦になるクレームは、「騒音」「振動」「臭い」「化学物質」などの目に見えなくて、かつ人によって許容範囲が大きく異なる問題ではないかでしょうか?
みなさんの担当現場は、問題ありませんか?
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