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2020.08.10

【怪談】建築界の稲川淳二が語る「世にも奇妙な建築現場の怖い話」

【怪談】建築界の稲川淳二が語る「世にも奇妙な建築現場の怖い話」

 

⊕PRTIMES

 

本当にあった建設現場の「怖い話」

建設業界に勤めていると、よく「怖い話」を聞かされることがあります。有史以来、様々な因縁を背負った建築物や土地に立ち入って工事を行い、時には深夜まで常駐することのある仕事ですから、建設業界の人は誰でも一度は、怖い経験をしたことがあるのではないでしょうか?

今回は、私が直接聞いたり、経験したりした建設現場の怖い話の一部をお伝えします。

が、談合やデータ改ざんなどといった類の怖い話ではありませんので、「怪談」が苦手な方はくれぐれもご注意ください。

内装リフォームの現場で「開く扉」

その日、Kさんは青い顔をして、いつもより早く事務所に引き上げてきました。当時入社5年目、おしゃべりで、小太りな男性の現場代理人のKさん。

同僚たちが、いつもと違うKさんの様子に気付き、その訳を尋ねると、話好きなKさんは「待っていました!」と言わんばかりの表情で、噛み締めるように話し始めました。さながら、建築界の稲川淳二といったところです。

「S邸で出たんだよ・・・怖かったぜ・・・」

その日は、S邸の内装リフォームの現場が着工日でした。KさんはS邸に家具の移動と部屋の養生をしに行ったそうです。S邸は築30年ほどの2階建ての一軒家で、60代の夫婦が暮らしています。工事内容は、家全体の壁紙の張替えと、水廻りのリフォームでした。

壁紙を張替えるためには、家具を部屋の中央に寄せる必要があるのですが、工事費を安くするために雑工は雇わず、Kさんは内装屋と2人でその作業にあたったそうです。

施主は留守で、鍵を預かっての作業でした。Kさんと内装屋は、午前中は2階の養生と家具移動を行い、階段を上がってすぐの部屋である納戸の作業を終えたところで、昼食を食べに出かけました。

昼休みを終え、2人が現場に戻ると、Kさんは締めて出たはずの納戸の扉が開いていることに気がつきました。その時は「施主さんが様子でも見に来て開けたのかな?」としか思わなかったそうです。

午後、1階の作業を行っていると、突然2階から

バタバタバタ・・・

という子どもの走るような足音が聞こえてきました。Kさんと内装屋は顔を見合わせましたが、お互いに「ネズミでもいるのかな」とあまり気に留めなかったそうです。

しかし、しばらくすると再び2階から、

バタバタバタ・・・

という足音と、

ドンッ!

という叩きつけるような強い音が聞こえてきました。

相次いで聞こえた、普通ではない物音にKさんと内装屋は再び顔を見合わせ、手を繋いで2階へ行ってみることにしたそうです。

するとまた、締めたはずの納戸の扉が開いていました。

「さっき締めたはずなのに・・・」

「とりあえず1階だけぱーっと終わらせちゃって、今日は切り上げようよ」

2人は納戸の点検を後回しにして、作業が残っている1階に戻り、仕事を終わらせることにしました。

1階の作業を終えたところで、施主夫婦が帰宅しました。施主の帰宅にほっとした2人は、1階から順番に養生と家具移動の報告と、様子を見てもらうことにしました。

養生の丁寧さを褒められながら、和やかな雰囲気で各部屋を回っていた4人でしたが、Kさんと内装屋が言葉を失ったのは、2階に上がり、問題の納戸に入った時でした。

家具に施されていた一部の養生がべろんと剥がれ落ちていたのです。

剥がれ落ちた場所には、ガラスケースに入った膝丈ほどの大きさの日本人形が一体、正面を見据えて立っていました。不思議なことに、このガラスケースの扉は大きく開いていました。

「あら、ここはやり直してもらわないとね」

施主に言われた2人は、冷や汗をかきながら養生を直して現場から引き上げたそうです。

「いやだな。あの現場、明日から何もないといいけど・・・」

Kさんは憂鬱そうにこぼしていました。

工事は順調に進んだのですが、工事中も人形のある2階の納戸からの不審な物音は続き、いないはずの小さな子どもを目撃した作業員もいて、1ヶ月ほどの工事でしたが、「S邸は出る」と有名な現場になっていました。

ホラーが苦手で意外と繊細なKさんは、工事期間中、寝不足に悩まされ、みるみるやつれて行きましたが、元々小太りだったためにそこまでの大事には至りませんでした。そして、S邸は無事に工事を終えたのでした。

それ以来Kさんは人形全般が苦手になりました。もう何年も前の出来事ですが、S邸を思い出すと今でも眠れなくなるそうです。

幼稚園の現場事務所に「深夜の訪問者」

これは、ある幼稚園の耐震改修を受け持った時の出来事です。私は現場事務所に常駐し、連日深夜まで作図作業に追われていました。

今日こそは早く帰ろうという決意も虚しく、その日も時刻は23時を回っておりました。

「そろそろ帰ろうかな。」

先輩のMさんが席を立ちました。

「まだ掛かりそうなの?」

心配してくれたMさんに、私は「あと1時間くらいはかかりそうです。施錠はしますので大丈夫ですよ」と言い、Mさんには先に帰ってもらいました。深夜の現場事務所には私一人になりましたが、忙しさからこの時は全くこの状況を怖いと思いませんでした。

静けさの中、作図作業も順調に進み、日付をまたごうとした頃でした。

ブンッ!

という低い音がして、突然照明が消えました。

「ヒッ!」

私は思わず声を上げましたが、パソコンの電源が落ちていないことに安堵したのを覚えています。状況がつかめず、立つこともできず、様子を見ていると10秒ほどで照明が点灯しました。

「接触不良かな」

わざと声に出して自分を落ち着けて、作図を続けることにしました。

1時を過ぎようとした頃、いい加減帰ろうという気になりながらも作業を終わらせられずにいると、

プルルルル・・・

突然事務所の電話が鳴り始めました。

「会社からかな?」

夜中の1時に電話なんて普通ではあり得ないことですが、本店の深夜残業の仲間からの電話からかと思い、2コール目で出てみることにしました。

「はい、○○建設○○幼稚園現場事務所です」

・・・・ツーツーツー

電話はすぐに切れました。

「なんだよ・・・」

悪態をつき、受話器を置いた瞬間、私は突然この状況の怖さに気がつきました。

深夜の幼稚園。ひとりきりの現場事務所。急に恐ろしくなって、急いで帰り支度を始めました。その時です。

バンバン!バン!!

ものすごい強さで事務所のドアを叩く音が現場事務所に響きました。平手で叩いたような音でした。私は思わず頭を守り、声も出せずにすぐにドアの方向を見ましたが、人影はありませんでした。

現場事務所はプレハブ小屋で、ドアは下半分がアルミ、上半分が硝子の引き違い扉です。人が立っていれば硝子にぼんやり人影が見えるはずなのに・・・。

深夜のただならぬノックの音に、命の危険も感じながら何故か私はしっかり施錠確認と日報をつけていました。事務所内にあったゴルフクラブを持ち、恐る恐る扉を開けましたが、周囲を見回しても人の気配はありませんでした。

鍵をキーボックスに収めた私は、急いで車に乗り込み、現場を後にしたのでした。

誰かのいたずらかもしれない。そんな気持ちもまだあったので、意外とすぐに気持ちは落ち着きました。

翌日、私が疑いの目を向けたのはMさんでしたが、1時間以上前に帰宅したMさんがそんな物好きなことをする訳もなく、結局あの不可解な現状が何だったのかはわかっていません。

「セミでもドアにぶつかったんじゃない?」

Mさんはそう言いましたが、あの音は、そんな軽い音ではありませんでした。もっと強い、何かを伝えたいような・・・。

怖い思いをした私は、それ以来どんなことがあっても深夜まで残業をすることはなくなりました。いたずらの正体が何であれ、あんな怖い思いはもう二度としたくないからです。

 

人骨が出なければOK?工期厳守の現実

次の話は工事現場でよくある話です。掘削中に「何か」が出てきても、だいたいは埋め戻して、そのまま工事を進めてしまうという・・・。

実際に私がいた建設会社が請け負った現場でも「何か」が出てきたことがあったようで、その時、現場代理人から社長への報告を小耳に挟んだことがありました。

現場は歴史がある町の戸建て住宅の建て替え工事。担当の現場代理人のSさんは、定年間近のベテラン監督でした。

Sさん「すみません、T邸なのですが、出てきましたよ・・・どうしましょう?」

社長「何が出たの?」

Sさん「陶器と、古そうな銅みたいなやつが。一応手はつけてませんが」

社長「骨はなかった?」

Sさん「骨はなかったです。どうしましょう?」

社長「・・・余裕ないよね」

Sさん「工期もお金も余裕ないです」

社長「では、そのままやっちゃってください」

Sさん「はい」

ワクワクして聞いていたのですが、こんなにあっさりと歴史は埋められてしまうのかと驚いた瞬間でもありました。

古い社員に聞いたところ、「古い土地ではよくある話」とのことでした。工期が延びるので人骨が出ない限りストップはしないし、施主にも報告はしないそうです。

大きい現場の場合は余計その傾向があるようで、ベテランのSさんは今まで工期を守るためにあらゆるものを埋めてきたそうです。

小心者の私にはとても出来そうにありません。歴史あるものを埋めるのは怖いですし、罪悪感に潰されてしまうかもしれません。

現場代理人の仕事も、建設会社の社長も、肝が据わっていないとできない仕事だなと思った出来事でした。

・・・他にも建設現場の「怖い話」はまだまだあるのですが、お尻の青い私が身近で見聞きした話なんて、玄人の建設技術者の皆さんにとっては、ごく軽い内容だったかもしれません。

建設現場では、今日もどこかで必ず誰かが怖い経験をしているに違いありません。どうか建設現場の皆さんには、いかなる状況にあっても、安全第一で頑張ってもらいたいものです。

 

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