株式会社リクルート住まいカンパニー社より毎年発表されるトレンド予測。今年のトレンドキーワードは「職住融合」でした。
今年の発表も例年通り1月の発表。まさかの予言のようにコロナウイルス感染爆発により、加速度的に多くの方が在宅ワークを経験し、まさしく「職住融合」な暮らしが広がりました。
今回編集部では、リクルート住まいカンパニーのSUUMO編集長である池本さんにWithコロナはリノベーション業界、そして、リノベーションの設計にどのような影響を与えるのか、実際にお話を伺ってきました。
SUUMO編集長 池本洋一さん
目次
住む場所の選び方の変化
変化がでてきたのは大きく2つです。
「住む場所の選び方の変化」そして「住まいの機能の変化:ワークスペース」です。
よく世の中で言われていることで勘違いしてはいけないことは、「都心は高いから郊外に移動しよう」とか「地方都市に移動しよう」という動きがいろんなメディアでも見ることがありますがこれは限定的な話と考えています。もちろんSUUMOの閲覧データをみてみても、郊外で人気が高まっているエリアもありますが、あくまでも特徴のある郊外エリアに限った話で、すべての郊外エリアの人気が同じように高まっているわけではありません。
Uターンなどの移住も、もともと福岡出身の方が戻っていくなどはあるかもしれませんが、まったく知らないような郊外の土地に移住しようという方は少ないです。
一方で動きが多いのは、賃貸に住んでいたファミリーが環境を改善させるために今賃貸で住んでいる場所の周辺で広さや必要な部屋数を手にすることができる物件を購入して、環境を改善する例が増えています。同一エリアでも、広さを優先させるために、駅距離を妥協したり、急行停車駅ではなく、各駅停車駅にするという動きが加速している印象です。
つまり、エリア移動が大きく起こっているのは一部の動きであり、大きく住むエリアを変えずに、物件種別を変えている方のほうが多いです。
住まいの機能の変化:ワークスペース
次に「ワークスペース」についてです。
色濃くテレワーク導入によりワークスペースの設置希望が増加し、住まいの変化が起きているのは首都圏など都市部です。
逆にそれ以外は特にコロナによる変化はあまりないと言えます。
テレワークは「不可逆」
もう一つ勘違いしてはいけないのが、私たちが1月に発表して「職住融合」がまるで予言のように走ってしまっていますが、決してコロナが原因でこのワードがトレンドになったわけではないということです。
仕事場を住宅に取り入れる動きは、コロナ前からあった動きです。そのためコロナの影響をもし受けない状況になったとしてもこの動きは無くならず「不可逆」の動きとして今後も続いていくトレンドです。それがコロナの影響を受けて一気に加速したという話、というのが正しい流れかと思います。
株式会社リクルート住まいカンパニー
プレスリリースより(2020年5月22日)
また、もともとテレワークを実施していた方は2019年11月時点では17%でしたが、次のグラフを見ていただくとわかりますが全体の10%未満の時間しかテレワークに費やしていない方が約半数でした。
株式会社リクルート住まいカンパニー
プレスリリースより(2020年5月22日)
これがどういうことかというと、メインは職場で仕事をして、ちょっと家に仕事を持ち帰ったりする程度のテレワークが一般的な型でした。これが、最近の調査では全体の内90%以上の時間をテレワークとして仕事をしている方が一気に増えました。これがテレワークにおける変化です。
住宅設計への影響
コロナの影響は新築マンションや注文住宅の設計の中でも変化が見られました。例えば、テレワークを可能にするワークスペースを追加できたり、個室のワークスペースを用意し、なおかつ防音やライティングに配慮するオプションも生まれてきています。
また、新築マンションの共用部も変化してきています。これは数年前から既に見る機会がありましたが、共有スペースの中にシェアオフィスのような機能がついているマンションも出てきたり、直近ではWEB会議が可能な個別ブースを複数用意するマンションも出てきています。
次に戸建ての設計の変化です。例えば90㎡前後の新築戸建てがあるとします。この面積の中で、テレワークだけでなく、リモートスタディーが行われることを想定して小さくても個室を用意することで5LDKのものが出てきました。さらに将来的に壁を立てればさらに個室が増やせる配慮もされている場合もあります。
これは、住宅設計全般に言えるかもしれませんが、提案する上で求められることは今まではリビングを広く取る上図①の面積の配分でしたが今後は、②③のようにリビングの面積を圧縮してワークスペースを増やすことへ変化していくのではと考えています。
リノベーションの設計への影響
そもそも「職住融合」というテーマに注目し始めたきっかけというのがリノベーションによりできた住まいの変化でした。
今人々がどういう暮らし方を望んでいるのか、あるいはどういう間取りを望んでいるのか、あるいはどういうインテリアのテイストを望んでいるのか知りたいと思ったときには私はリノベーション物件を見るようにしています。なぜかというと、そのまま住める物件を自分に合った住まいへわざわざ一回作り直しているわけですから、そこに住まい手の本質的なニーズは現れるはずだからです。
そして、リノベーション物件をウォッチしていく中で、明らかにここ2年でリビングの脇などでワークスペースを作る物件が増えてきていました。しかもそれが、個人事業主の方ではなく一般の企業に務める会社員の方の住まいにも出てきていました。
また、今年は本来であれば東京オリンピックの影響も受け首都圏では東京都の発信でテレワークを推奨した動きも後押しする形でありましたので、このタイミングで「職住融合」をトレンドキーワードとして発信しましたわけです。
つまり、コロナの影響というわけではありませんがリノベーションの設計をする上では、常に変化していくお客様のニーズの本質をとらえて、しっかり形にすることが引き続き必要かと思います。
また、首都圏であれば先ほどの話を踏まえテレワークへの対策は必要かと思います。特に今なら個室のワークスペースの必要性は高まっていますのでしっかり対応は必要となるかと思います。特に複数の個室への対策は重要です。
株式会社リクルート住まいカンパニー
プレスリリースより(2020年6月30日)
次に、上記グラフでも上位に食い込んでいる遮音性への対応です。ワークスペースでのリモート会議への対応もそうですが仕事に集中できる環境を整える意味でも必要になります。
これら以外にニーズとしての変化が上がってきそうなことがあります。テレワークにより在宅時間が長くなること、コロナの影響を受け外出ができなくなったのは全国的な変化ですが、そのことによって住まいの間取りやデザインなどとは別に、追従してくることが遮音性や通風など、「住宅の快適性」が求められる動きが高まってくるかと思います。
ただ、断熱や防音、インナーサッシなどは高さや面積が限られたマンションリノベーションにとっては専有面積や天井高を狭めることにもなりますのでしっかり説明の上でユーザーに選んでいただくことが重要かと思います。
また、だいぶ緩和はされてきてはいますが、外出も控えている方が多いので、インテリアにもアウトドアの要素を取り入れいれたて、非日常空間を用意していたり、グリーンなどを設置する提案をするなども有効かと思います。フィジカルな快適性、心理的な快適性へのニーズは高まってきていますので多様な方向性でそこへの提案をすることは有効かもしれません。
いかがでしたでしょうか?
リノベーションに関わる方にとって、住宅に関わるお仕事をしている方にとって今後参考になる情報があったのではないでしょうか。
是非、ご参考にしてください。