~この記事でわかること~
- 低予算でも造作キッチンは実現できる
- 既存キッチンは解体しないで!本体を再利用できる!?
- システムキッチンを併用して賢く造作キッチン
- フルオーダーの造作キッチンよりは自由度に制限あり
- 寸法確認や現場調整など、一定の設計スキルは必須
「リノベーションをしたら、こだわりのアイランドキッチンにして最新式の食洗機を入れて………….」
と、リノベの際に多くのお客様が一度は ”理想のキッチン” を思い描くことと思います。しかし、実際にプランを進めていくと、どうしても造作キッチンでは予算に収まらない………という壁にぶち当たることは少なくありません。
「お客様の理想のキッチンを実現したいけど、どうにかコストを抑えたい」
というのは、デザイナーにとっては永遠の課題かもしれません。
そこで今回は、そんな苦しい状況に一筋の光が差し込む………!?
リノベで役に立つ「低コストで造作キッチンを作る方法」と、そのメリット・デメリットをご紹介していきます。
見積もりを前に頭を抱えているデザイナーの皆さん。
ぜひ一度、この記事に目を通してみてください!
目次
造作キッチン・システムキッチンの違い
まずは、一般的な「システムキッチン」と「造作キッチン」の定義について念のためさらっとおさらいをしておきましょう!
住宅設計において、キッチンを作る方法は大まかに分けて2つあります。それが、皆さんご存知の「システムキッチン」と「造作キッチン」です。
引用:リノべる
システムキッチンは、主にTOTOやLIXILに代表される様な住設メーカーが規格を設定して販売している既製キッチンを指します。システムキッチンは、メーカーの企業努力が惜しみなく反映されているため機能性や清掃性は抜群ですが、意匠性の面では、限られた中からのセレクトのため100%思い通りにならないという難点があります。
一方造作キッチンは、ゼロから好きな素材・ぴったりの寸法・好みの収納や設備を組み合わせて、自分だけのオリジナルキッチンを作れるというのが最大の特徴です。ただ、造作キッチンはこだわりを反映してゼロから作り上げるので、どうしても価格が高くなってしまいがちです。
上記の通り、思い描いたキッチンを形にするカスタムメイドのキッチンが造作キッチンと言えます。
造作キッチンが高い理由
「夢のカスタムメイド…!」と誰もが憧れる造作キッチンですが、先ほどの章でも少し触れた通り造作キッチンの難点は、なんと言ってもそのコストにあります。
造作キッチンでは、素材にこだわって人気のオールステンレスやモルタルのキッチンにする、また、こだわりの設備機器を好みの位置に設置することが可能でも、どれもサイズに併せて特注加工・製作が必要になります。
引用:フォトAC
システムキッチンの価格が抑えられる理由に、一定の決まった規格があり、そのサイズで大量生産が可能な点が挙げられますが、造作キッチンは全てが一点もののため、既製品に比べてどうしても割高になってしまいます。また、意匠性を重視して素材選定を行うと、傷や汚れが目立ちやすかったり、天然素材でお手入れの手間が多少増えるという場合も少なくありません。
そのため、近年多くのリノベーションではシステムキッチン周りに笠木やカウンターを設けて造作キッチンに近づける、または背面の収納のみ造作で作成するという方法が主流となっていますね。
とは言え、やはり造作キッチンが作り出す空間の奥行きや洗練された空気感は、システムキッチンではなかなか再現が難しいと言えます。(または、再現するためにシステムキッチンのグレードを上げると、結果、造作キッチンと同等程度に費用がかさんでしまうこともしばしばあります)
低コストに収める3つの方法
このジレンマをどうにか解消すべく、ここからは早速、造作キッチンを低コストで実現する方法を3つご紹介していきます!
※今回は造作の様に見えるオシャレなシステムキッチンのご紹介ではなく、あくまでシステムキッチンを採用しない(もしくは部分的にのみ使用する)方法に限っての造作方法です
1. 既存のキッチンを部分利用する
まず1つ目は、既存のキッチン設備を部分的に再利用する方法です。
具体的には、キッチン本体(土台)の構造部分を再利用し、ワークトップや設備機器・キャビネット扉のみを新規に造作することを想定しています。
築古で、独立式ガスコンロ等が設置されている年季の入ったキッチンでは、再利用は少し厳しいですが、2000年以降に建てられた築10〜20年程度のお部屋のキッチンであれば、キッチン本体はまだまだ再利用が可能な状態なことも多くあります。
キッチン土台・収納内部等の状態が良い様であれば、そのまま清掃のみで再利用し、その他(ワークトップ・設備機器・キャビネット扉)を新調。汚れや傷が目立つ様であれば、仕上げ貼り替えを行う等で対応できるでしょう。
日本のリノベーションでは、未だに新築神話の強い考え方や衛生的な観念も相まって既存の設備がまだ使えそうでも、全解体して一から全て作り直すというケースを多く見かけますが、海外では既存の状態が良ければそのまま再利用して、必要な箇所だけ新調するという方法は珍しくありません。
キッチンの本体部分はよっぽどの使い方でない限りは腐食も少なく、メーカーのシステムキッチンであれば尚更、作りもしっかりしています。そのため、造作キッチンの実現を優先させるには、せっかく使える土台まで解体してしまうのは少しもったいないと思いませんか?
引用:フォトAC
ただ、この方法が確実に活用できるのは、キッチンを既存位置から変更しない(基本的にサイズ変更もない)場合です。
もし、キッチンの位置変更を考えている場合は、取り外しや再設置に別途手間がかかる+綺麗に取り外しできない可能性もあるため、多少リスクが上がります。とは言え、これはリノベーションならではの活用方法ですので、条件が合う場合は積極的に検討してみてはいかがでしょうか?
※仕上がりの品質が既存状態に左右されるので、念入りに既存状態は確認しお客様にも事前に説明を行うことをおすすめします。
※既存キッチンの利用に伴い配管を再利用する場合は、既存配管の状態を必ず確認してください。可能であれば、配管は新設することをおすすめします。
2. キッチンキャビネット(土台)のみメーカー品を利用する
2つ目は、1つめの応用の様な形になりますが、キッチン本体(土台)部分のみ既製品を利用し、その他(ワークトップ・設備機器・キャビネット扉)を新規で造作する方法です。
こちらも、厳密にはフルオーダーの造作キッチンではないものの、表立って目に見える仕上げ部分+設備機器を自分好みにカスタムできるので、仕上がりの満足度が格段に上がるでしょう。
特に、日本では嫌煙されがちな印象のあるIKEAのキッチンですが、DIY施工もできる様にパーツ毎で販売されている+組み立てが容易なので、この方法で造作キッチンを作るのには適しており、カスタムできる幅もかなり広がります。これだけ読むと少し邪道と感じる方も多いかと思いますが、国内外の建築家の事例で、実際にIKEAのキッチン本体を利用し、ワークトップ、キャビネット扉を合板で仕上げる活用例等を見かけることも少なくありません。
ただ、メーカーによってはキッチン本体のみの販売は行なっていない場合や、本体のみオーダーできたとしてもパーツの必要有無をデザイナー自身で確認しないといけないので、必要部品の確認や寸法調整等に通常よりもスキルを伴うと言えます。この点で、既存キッチンの本体利用をするより難度が上がるでしょう。
引用:フォトAC
また、所属している会社、設計事務所によってはこのようなカスタム方法は品質保証の観点から取り入れていない場合もあると思いますので施工には注意が必要です。また、この場合キッチンメーカーへ材工での依頼ではなく、現場施工になる可能性が高いため、施工会社の対応可否も確認が必要です。
※あくまで活用方法の一例としてご紹介していますので、既製品との併用を推奨、また品質を保証するものではありません。(本体のみではメーカー保証の対象外となることがほとんどなので要注意)
※IKEAの設備機器や水栓については、日本の機器と仕様が異なる+パーツ等が廃盤になりやすく長く使えない等が懸念されるので、採用には十分注意しましょう。
3. Ⅱ型キッチンで一部だけ造作する
3つめは、Ⅱ型キッチンとよばれるシンクとコンロを単体で並列に並べるレイアウト方法の応用編です。この方法では、耐熱性や機能性を重視してコンロ側のキッチンはメーカーのシステムキッチンをオーダー、シンク側のキッチンはアイランドキッチンとして新規造作することを想定しています。
この方法では、お部屋のメインとなるアイランドキッチン部分を自分好みにカスタムできるので、コストバランスを取りながら造作キッチンを実現できるスマートな選択肢と言えるでしょう。
また造作キッチンの場合、耐熱性や安全性の観点からコンロ周りの収まりに苦労するという若手のデザイナーも多いかと思います。その点、この案ではコンロ側はメーカーの既製品を採用でき、尚且つ保証も対象になる場合が多いので、少し冒険をした提案をしてみたいという若手デザイナーにもオススメの方法です。
この方法で最も注意したいのは、どこまでコンロ側とシンク側のキッチンの統一性を持たせられるかという点です。同時に二体のキッチンが並んだ際に不揃いにならない様、「ワークトップの素材を統一する」「ハンドルの形状を揃える」または「コンロ側は白で統一しシンク側のキッチンのみ素材に遊びを持たせる」等、仕上がりのクオリティをしっかりと保つことを心がけましょう。
また、お客様がシンク一体型のワークトップなどを希望されている・海外製の食洗機導入を検討している場合等はコストが上がる可能性が高いので注意が必要です。
メリット・デメリット
では最後に、これらの方法を採用する際のメリット・デメリットを確認しておきましょう。
・メリット
低予算で造作キッチンを実現できる
システムキッチンよりも意匠性を追求できる
好みの設備機器を導入できる
造作キッチンをゼロから設計するより設計し易い
・デメリット
フルオーダーの造作キッチンよりは自由度が下がる
寸法確認や現場調整など、一定のスキルが求められる
ほぼ現場施工で仕上げるので品質管理が難しい
設備保証等の区分が曖昧になりトラブルの可能性増
所属の会社や施工会社によって対応不可の場合あり
「どうにか予算内で造作キッチンを実現したい!」という場合には、ぜひ一度検討をしてほしい方法ではあるものの、デザイナーのスキルが求められ、施工に一定のリスクを伴うのは確かですので、必ず早い段階から詳細までしっかりと確認・検討を進めながら設計していきましょう!
さて、今回は低コストで造作キッチンを作る方法をご紹介してきました。
これらの方法を採用する際には通常のリノベーションよりも更に「念入りなお客様への説明」「詳細図で細かな寸法までしっかりと検討」、そして「現場との念密な連携」が欠かせません。
少しハードルは高く感じるかもしれませんが、注意事項をしっかりと把握すれば予算内で造作キッチンを実現可能です。ぜひ、お客様の “理想のキッチン” に近づけるために、ご提案をしてみてはいかがでしょうか?
では、また次の記事でお会いしましょう!
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